?人間存在(being)そのものが尊いか

◆人間存在(being)そのものが尊いか
 「人間は存在(being)自体が尊いのであって、能力や行い(doing)によって尊いのではない」とよく言われます。確かに、能力や行いは尊さの基準にはなり得ないと、私もそう思います。でも、無条件に人間の存在自体が尊いと言えるのでしょうか。
?存在自体が尊いと言えるのは、誰かとの関係においてのみである
 たとえば、母親が子供に「勉強やスポーツができなくて、あなたの存在自体がお母さんには尊いのよ」と言ったとします。確かに、親はそうあるべきです。しかし、この場合、子供の存在自体が尊いのは母親にとってのみであって、母親との関係なしに尊いのではありません。つまり、子供の存在自体の尊さは母親に支えられているのです。また、母親は口で言うだけでなく、実際に我が子のためなら命を投げ出すほどの愛がなければなりません。でなければ、子供の尊さは実質的なものにはなりません。こういう母親がいてはじめて、子供は存在自体で尊いのです。
 しかし、母親の愛から切り離されたら、あるいは、母親が愛を失ったら、子供は存在自体で尊いとは言えなくなります。周囲の人たちや校長先生や教育評論家たちが、「あなたの存在自体が尊いのだよ」と言ってくれるかもしれませんが、それは言葉だけであって、実質はありません。彼らはそうは言っても、母親のように、「あなた」のために命を投げ出すほどには愛してくれません。存在自体の尊さを支えられないし、支えようともしないのです。