ミッシャ・マイスキー(1948~)は、1973年、旧ソ連からイスラエルに帰還した世界的なチェリストです。彼はソ連時代にユダヤ人の教育を受けたわけではありませんでしたが、飛行機の中からはじめてテルアビブの夜景を見たとき、彼の中で何かが目覚め、「自分がいるべき所」「所属すべき所」に戻ってきたと感じたといいます。ユダヤ人の血、ユダヤ性がよみがえってきたということでしょうか。
一方で、彼はこうも述べています。「私は自分のことをユダヤ人とか、どこどこの国民というよりも、『世界市民』だと思っている。インターナショナルな世界での一市民、国際人、コスモポリタンという位置づけが好きだ。」パスポートの国籍はイスラエル、妻はアメリカ出身、娘はフランス生まれ、息子はベルギー生まれ、チェロはイタリア製、弓はフランス製、弦はオーストリアかドイツ製、車とパソコンは日本製、ステージ衣装はイッセイ・ミヤケのデザイン。ユダヤ人ではあるが、「さまざまな状況が、私をどこかひとつのところに帰属することを拒否している」(『ミッシャ・マイスキー「わが真実」魂のチェリスト』伊熊よし子著・小学館)。しかし、これがユダヤ人というものなのでしょう。
イスラエル在住のクリスチャンジャーナリスト石堂ゆみさんから聞いたことですが、ユダヤ人には、民族のアイデンティティとともに、「人類の代表」という意識もあるようなのです。だから、自国やユダヤ人のことを第三者的に見ることもできるのです。
私たちクリスチャンも、幸いにも地上の民族や国籍を越えた「国籍」を天に持っています(ピリピ3:20)。つまり、自国を愛しながらも、同時に「神の国の国民」という意識で生きることができるのです。今は世界的に、国家主義(ナショナリズム)、民族主義が強まっている時代です。そんな時代だからこそ、せめてクリスチャンだけは、「世界市民(コスモポリタン)」のアイデンティティを育てていきたいと願います。