苛立つ町に箱舟を

目が合って殺人、ちょっと注意されて殺人、追い越されて殺人、些細なことでキレて殺人、そんなニュースが最近目立ちます。東京に出て、夕暮れの満員電車に乗ると、殺気立った空気を感じることがあります。心に疲れ、苛立ち、怒りが縁いっぱいまで張りつめて、コイン一枚入れれば崩れて流れ出す水満杯のコップのような状態です。
地方から上京した友人牧師が、「東京の電車内で咳込めば、ぎろりと迷惑そうな視線を送られる。私の町で咳すると、大丈夫ですかと声かけられる」と言っていました。
妊娠中を知らせる「マタニティーマーク」をごぞんじですか。妊婦に配慮するために厚生労働省が定めました。電車の優先席にもこのマークが掲示されています。受動喫煙の防止や、災害時に妊娠中と知らせる役割もあります。しかし、「妊娠は病気じゃないのに特別扱いはおかしい」「電車に乗るべきではない」という反発があるというのです。そのため、妊婦の間では使用を自粛する動きが広がっています。ある妊婦は「暴言や暴力の標的になると知って怖くなった」と言い、電車で席を譲れと圧力をかけるようで気が引けてマークを捨てたという妊婦もいました。マークを付けるにしても目立たないように小さくして欲しいという要望もあるそうです。人々の心からいたわり、優しさが消え、苦々しさがあふれ出るようになっています。心には思いやりの隙間さえないのです。
最初の殺人者カインが「主の前から去って」建てた町は、その子孫レメクの時代に男尊女卑の町、「七十七倍」復讐する町になりました(創世記4章)。やがて「人の悪が増大し、その心に計ることが、いつも悪いことだけに傾」いていきます(同6:5)。そして、主の裁きを受け、大洪水で滅んだのです。
今日の都会は、「カインの末裔」の町のようです。私たちもノアのように、「箱舟」を用意しなければならない時が来ています。「心の一新によって自分を変え」ていただき、心に寛容、親切、善意、柔和の空間を拡大していきましょう。