ボリス・コーンフィールド

20世紀の旧ソ連に、ボリス・コーンフィールド(Boris Kornfield)というユダヤ人医師がいました。迫害にさらされてきたユダヤ人にとって、社会主義者になり、革命を支持することが生き残りの道でした。しかし、ソ連政府は些細なことで人々を収容所に送ります。多くのユダヤ人が殺されました。絶望したユダヤ人はキリスト教に改宗したり、国外に脱出したりしました。

ボリスが選んだのは改宗で、強制収容所の医師として働き始めました。特別勇敢だったわけではありませんが、囚人を死に至らしめる書類にサインすることに、独りで抵抗しました。これが後に、彼に命を要求することになります。

ところで、その収容所にアレクサンドル・ソルジェニーツインという、ガンの手術を受けたばかりのロシア人の若者がいました。長い収容所生活なのに子供のような表情を見せる若者に、ボリスは心打たれました。あるとき彼は、意識朦朧のこの若者に向かって、自分の身に起こったこと、そしてキリスト信仰の体験を猛烈な勢いで話しました。若者は高熱でブルブル震えていました。しかし、ボリスは話し出したら止まりません。その熱意がソルジェニーツインの心を目覚ませました。彼はもともと、母親からキリスト信仰で育てられていたのです。

翌朝、ソルジェニーツインは、手術室付近であわただしい音を聞きます。ボリスが就寝中に何者かに襲われ、運び込まれたのです。仲間の医師が懸命に助けようとしましたが、まもなく死亡しました。彼はボリスの死を知ったとき、彼の熱情のこもった言葉を思い返しました。そして、ボリスの信仰を引き継ぎ、収容所を生き抜いて、自分の見聞したことを文学で世界に伝えました。それがノーベル賞受賞につながった『収容所群島』という記録作品です。

 死を覚悟したボリスの勇気ある信仰の行動は、瀕死のソルジェニーツィンを生き返らせ、世界の人々の心を揺り動かしました。(Colson, ”Loving God” 27)