イスラエルの南ネゲブ(出エジプトしたイスラエルの民が通ったツィンの荒野)に、細々とオオカミが住んでいます。アラビアオオカミといい、体重はわずか20キロ、世界最小のオオカミです。
ネゲブは、こんなところに狼が住んでいるとは思えないような、過酷な岩沙漠です。雨はほとんど降らず、ところどころにピスタチオの木やアカシアの灌木が見られる程度です。
なぜこんな所にオオカミが住んでいるのか。実は、9000年前は、ピスタチオの樹木などが生い茂り、多くの野生動物が住んでいました。しかし、地球の温暖化で乾燥し、荒野になってしまったのです。オオカミはそこに取り残されました。
では、どうやって生活しているのか。数少ない野生動物や家畜の死骸を求めて、一日十数キロ移動します。水はオアシスに湧き出ています。といっても草の茂みにある洗面器ほどの水たまりです。ネゲブの最強の肉食動物であるシマハイエナや、他のオオカミと鉢合わせしないよう気を配りながら、少量飲むだけです。
ところで、ネゲブには地下水を汲み上げてブドウやナツメヤシを栽培する農場があります。そこだけ緑が広がっています。道路をまたげばヨルダンとの国境線です。そのヨルダン領にもオオカミの巣穴があって、毎日次々と国境を越えて、イスラエル側の農場にやってきます。目当ては農場に住み着くネズミかと思ったら、違いました。ブドウ、ナツメヤシ、そしてパイプから漏れ出る水です。生き残るために、オオカミが草食化したのです。
農場主はオオカミを追い払いません。自由に食べさせています。野生動物との共存を目指しているそうです。
出エジプト記23:11に、7年ごとの安息年には土地から収穫せず、実ったものは「民の貧しい人々に、食べさせ、その残りを野の獣に食べさせなければならない。ぶどう畑も、オリーブ畑も、同様にしなければならない」とあります。農場主のユダヤ人は、今もそれを守っているのでしょう。(NHKBSワイルドライフから)
オオカミと農場主。世界に吹き荒れる迫害の嵐の中で、生き残りを目指すユダヤ人と、それを守り養う主なる神を思わせました。