PC内のファイルを整理していて、20年前の夏に書いた記録を見つけました。
2001年8月、タイ北方の山岳少数民族の村で行われたワークキャンプに、私はチャプレンとして同行しました。ワールドビジョン主催で、仕事は村の集会所建設のお手伝いです。20数名の参加者の中には、結婚前のAさんもいました。39度の炎天下、みな不平不満なく、楽しみながらよく働きました。
ところが、二日目の早朝、ワールドビジョンの女性スタッフが宿泊所でサソリに刺されたのです。医者のいない辺鄙な村です。サソリ―猛毒―死という言葉が頭の中で一瞬につながり、血の気が引きました。押っ取り刀で(大急ぎで)宿泊所に駆けつけると、なんと彼女は玄関口に立っていました。意識もはっきりしていて、しゃべりまくります。しゃべっていると激痛を忘れるというのです。
村人が薬草と日本の「味の素」をもって来て、刺された指にこすりつけました。これで一日もすれば痛みはひくと言うのです。半信半疑でしたが、その通り翌日は何事もなかったように治りました。
この事件が結果的に私たちをどれだけ安堵させたことか。東南アジアなので、サソリがいて当然なのです。しかし、刺されても死ぬことはなく、一日で済む、とわかりました。それをスタッフの女性が身をもって実証してくれたのです。その後もサソリやムカデは何回か宿舎などに出没しましたが、安心して眠ることができました。
数日後、彼女が私のところへ来て、「刺されたのがスタッフの私で、ほっとしたでしょう」と囁きました。私は心の中を見透かされたように、返答に詰まりました。すると彼女は、「実は、私も、私でよかったと思ったんです」とにっこり笑ってくれました。そんな彼女に心から感謝しました。
ひとりの犠牲と苦しみが多くの人の恐れを消し、平安と勇気を与えることがあります。実際、私たちは人々の身代わりの上に生きているのです。だから「なぜ私がこんな目に・・」と嘆きたいときも、人々の身代わりとなってこの苦しみを負ったのだと考えたいと思います。その苦しみを克服して、人に希望と勇気を与えることにもなれば、最高です。 ~