昔々、二人の姉妹がいました。一人は貧しい男に嫁ぎ、もう一人は高貴な男に嫁ぎました。ある年の瀬、貧しい男の妻は、夫の大切な着物を洗い、濡れた洗濯物のしわを伸ばしながら板に張っていました(今のアイロンがけです)。しかし、当時それは召使いのする仕事だったので、慣れない女は、張っているうちに肩のところを破ってしまったのです。大事な上着に何てことをしてしまったのだろう。女は泣き始め、せきを切ったように声を上げて泣き続けました。
さて、このことを、高貴な男が耳にしました。彼は、妻の姉妹をたいへん可哀想に思い、緑色の美しい着物を贈り、歌を添えました。
「むらさきの 色こき時は めもはるに 野なる草木ぞ わかれざりける」(歌の意味:紫草の、緑の色が濃い春には、それに根がつながっている野の草木も、一面緑なので、どこまでが一株の紫草でどこからが他の草木なのか、見分けることができません。それと同じように、私は愛する妻につながるあなたを、他人とは思わない)
平安時代の歌物語集、『伊勢物語』の話です。この話で、一番幸せなのは誰でしょうか?私は、一度も発言しなかった、高貴な男の妻だと思います。なぜなら、この歌は、「妻のことすごく愛してるからさ、つながっている人も大切にしたいよねー」という意味だからです。彼の歌は、妻が主役なのです。
この話を読んで、兄弟姉妹への愛もこのようであったらいいなと思いました。つまり、「イエス様のことすごく愛してるから、つながっている人のことも大切にしたい」ということです。イエス様が主役の心遣い。それが、緑一色の野のように広がることは、イエス様の一番喜ばれることなのではないでしょうか。
「愛する者たち。私たちは、互いに愛し合いましょう。愛は神から出ているのです。愛のある者はみな神から生まれ、神を知っています」(Ⅰヨハネ4:7)。
(新田優子)