笛と羊飼いの杖

私は、教会塾で、読み聞かせの奉仕をしています。今学期の最後のお話は、ユダヤ民話集の中の「笛と羊飼いの杖」でした。

ある日、砂漠を旅していた王は、羊飼いが、丘の上で、吹いていた笛の調べを聞いて、なつかしさで胸がいっぱいになりました。

そして、羊飼いに、都に来てくれと頼み、羊飼いは大蔵大臣に任命されます。他の大臣たちは、羊飼いがユダヤ人と知り、王に腹を立て、大蔵大臣の評判が増すにつれ、ねたむようになりました。

羊飼いは、大臣の仕事が忙しくなり、王と話したり、笛を吹く暇もなくなりました。大臣たちは、王の心が羊飼いから遠のいた今こそ、羊飼いをわなにかける絶好の機会だと思い、王に「大蔵大臣に任命したあのユダヤ人は、国の金を使い込み、大半を自分の懐に入れています」と進言しました。

王は最初疑いましたが、結局事実かどうか、羊飼いの家に調べに行きます。

とても質素な羊飼いの家に、誰も入ったことがない部屋があり、ドアを壊して入ってみたら、中には、一枚の板切れの上に、笛と羊飼いのずた袋と杖があるだけでした。王が、この部屋のことを聞くと、羊飼いは、「王さまは、羊飼いだった私を大蔵大臣にとりたててくださいました。そして、過去を思い出させてくれるこの品を見て、我が心がおごり高ぶらないよう、羊飼いだったことを忘れないよう、自分に言い聞かせております。」

私が、このお話を読んで教えられたことは、忙しさのあまり交わりがなくなると、心も遠のいていくこと、また神さまと出会ったときの感動を忘れないということでした。特に、最後に、王が羊飼いを抱きしめて言った言葉はとても心に響きました。

「この国と民のためにいかにそなたが心を砕き、時を費やしているかよくわかった。しかし、夕刻になったら、笛をもって城を訪ねてくれまいか。笛の音に二人で身をゆだね、砂漠で、我らの魂が出会ったひとときを思い出したい。笛の調べで、荒れ地の静寂が、命の喜びにみちあふれたことを思いだそうではないか」(谷野理恵)