創世記23章に、アブラハムが亡き妻サラを葬る墓のために、ヘテ人エフロンからマクペラの畑地を銀400シェケルで買い取ったという記事が出てきます。
「アブラハムはエフロンの申し出を聞き入れ、エフロンがヘテ人たちの聞いているところでつけた代価、通り相場で銀四百シェケルを計ってエフロンに渡した。」(16)。
アブラハムの時代、ヘテ人はアナトリア(現トルコ)にハッチ王国を建てていた民族で、歴史の教科書にはヒッタイトとして出てきます。最初に鉄器を作り出した民として知られ、その強力な武器でメソポタミアまで勢力を伸ばしました。ヒッタイトは鉄を独占し、紀元前12世紀初頭ごろに滅亡するまで、製鉄法を他民族には伝えなかったそうです。そういう事情で、鉄は銀の40倍、金の5倍の値段で取引されたと、アッシリア商人の「カッパドキア文書」に記録されています(河出書房「世界の歴史2」)。
銀400シェケルは4.6kg弱です。現代の銀の価格(1g=70円)に換算すると32万円ほどですが、当時銀は金の8倍でしたから、現代の金の価格(1g=5000円)で換算すると、1億8000万円にもなります。マクペラの畑地を買うには法外な値段です。私の郷里丹波の田畑なら、1反(300坪)100万円弱ですから、6万坪ぐらいは買える額です。当時の鉄で払えば114g、今の価格なら数10円で済むのですが。
確かに、アブラハムは言い値でとんでもない代金を払ったわけですが、主が子孫に与えると約束されたイスラエル全土の「手付け金」と考えれば、安い買い物だったともいえます。それゆえ、主がその値でよしとされたのかもしれません。およそ5百年後、ヨシュアがその「約束の地」をおおかた獲得することになります。
人間世界の「物の価値」は人間にもコントロールできないほど変わっていきます。永遠に価値あるものを築くため、常に永遠という視点で物の価値を見定め、世の事々とは適度な距離をとって、賢く関わっていきましょう。