原爆の父と呼ばれるロバート・オッペンハイマーは、非常に優秀な科学者で、エリート意識も強く、「世界で最も偉大な科学者と思われたい」という野心を抱いていました。しかし、なかなかノーベル賞級の研究成果を出せず、先に受賞していく同僚たちを嫉妬し、焦っていました。
そんなとき、ルーズベルト大統領主導の原爆開発の「マンハッタン計画」が始まりました。オッペンハイマーは原爆製造を、自分の名を残す絶好の機会と考えました。1942年11月、彼は軍の要求をすべて飲むという約束で、ニューメキシコ州のロス・アラモス原子力研究所所長の地位を獲得すると、優秀な学者を300人集め、不退転の覚悟で原爆製造を推進しました。のちに、オッペンハイマーはサタンに魂を売ったと言われることになります。この計画には、最終的に、ノーベル賞受賞者を含む1200人の科学者が参加しました。
もう一人、ルーズベルト大統領の近くで、マンハッタン計画を推進したブッシュという科学者がいます。彼は、科学者は社会に貢献しているのに、物理学の予算がカットされていることに不満を感じていました。そこで、強力な兵器を製造することで、科学者の評価を上げ、研究予算を獲得しようとしたのです。
さらに、もう一人、ルーズベルト大統領に、原爆開発をいち早く訴えた科学者がいました。1939年、ナチス・ドイツのホロコーストから逃れ、アメリカに亡命したレオ・シラードというユダヤ人科学者です。彼は、ドイツにはハイゼンベルクという核物理学の天才的な学者がいて、アメリカより先に原爆を開発することを恐れていたのです。そんなことになれば、ヒトラーが全世界を支配し、ユダヤ人は完全に絶滅させられてしまいます。なんとしてもアメリカがドイツよりも先に原爆を作らなければならない、その思いで必死でした。しかし、シラードは無名だったので、有名なユダヤ人物理学者アインシュタインを説得して、大統領に手紙を書いてもらったのです。
今週はまず、科学者たちの嫉妬、名誉心、利害関係、恐れが、原爆開発への原動力の一つになったことを記しておきます。(次週に続く)