ミシュランの審査員

昨今、ランク付けがはやります。いろんな分野で、個人、学校、会社、都道府県、国に至るまで、順位がつけられています。人間が基準を作って他者を評価し、ランクづけするのは、高慢の香りがします。

 レストランやホテルなどにランク付けをするミシュランガイドという本があります。フランスのタイヤ会社が何を偉そうに、世界の料理を評価するのかと、ちょっと不愉快でした。それをありがたがる日本人には、欧米コンプレックスがあると感じていました。

 しかし、ミシュランに20年近く務めている日本人審査員の覆面インタビューを聞く機会があり、ちょっと考えが変わりました。審査員は諜報員(スパイ)に近い制約があり、けっこう大変な仕事なのです。

 まず、自分の職業を隠さなければなりません。親しい人にも職業は絶対に明かせず、写真にも入らないようにします。そのため友達が減ります。1年で350回ほど候補の店で食事をしますが、自分で食べたいものを選べません。1週間、脂っこい料理を食べ続けた時は、通風が心配になったそうです。家族と食事を共にする機会は少なく、家族旅行もおいしい料理を出す店がある所にしか行けません。

 それでもこの仕事を長年続けているのはなぜなのか。それは、まだ知られていない美味しいお店を掘り起こして、人々に紹介することにやりがいを感じるから、とのことでした。

この店を評価してやろうという姿勢はとらず、感謝していただくことを忘れないそうです。だから、わざとフォークを落として従業員を試すというような意地悪なことはしません。対応が悪くて不愉快になると、食事を美味しくいただけなくなるからです。また、常に同じように判断できるように、体調管理に気を付けているそうです。

 店を評価するというより紹介する、そのために自分を隠す、感謝する、自制する、人を試さない、謙虚になる・・・まるで、聖書の教えではないかと思わされました。私はせいぜいB級グルメですが、ミシュランが星をつけるお店は、きっと誠実でへりくだった人が働いているんだろうな、と勝手に想像しました。